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小さな恋の詩3( 初ツナ)

キラキラと輝く金色の髪と空の色を写し取ったかに思える瞳が何とも印象的な知り合いは、豪快な性格にも限度があるだろうと思うのだが本人は至って気にしていない。少しは常識を学んで欲しいのだが、小さくとも横暴で俺様な家庭教師の悪友だ。腐ってもアルコバレーノの名を戴くだけはある。
渡米まで残り1日。そんな折に突如として現れたと思いきや颯爽と拘束された挙げ句、どこから持ち出してきたのか潜水艦へと押し込められ、気が付いた時には既に大海原へと駆り出していた。
家庭教師のニヤリと笑った悪質な笑みに泣きたくなった。国際問題以前に常識を知らない小さな姿が憎たらしくも愛らしいなんて思えるのは気のせいであってほしかった。
長くも短くもない付き合いだ。クリクリとした瞳が大層面白がって見える。
今一番被害を現在進行形で被り続けている苦労性は相も変わらず先輩二人には頭が上がらないらしい。
ヘルメットで遮られ表情は垣間見る事は出来なくとも、醸し出すオーラがどんよりと濁った色合いをしている。
俺様な家庭教師とその悪友の鬼教官にパシられ続けている軍師を生暖かい眼差しで見つめつつも此れから起こるひと騒動に胃の辺りが痛みを覚えるのだ。

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小さな恋の詩2( 初ツナ)

過ぎ去る時間の分だけ何かを無くしていく様な錯覚に陥ったのは最近の事だ。
否、もしかしたらもっと前からだったのかもしれない。
曖昧な事など何時もの事だ。
ふっと気が付けば季節は移り変わり、横暴な小さな家庭教師の役目はほぼ完了を迎えた。あと残す事と言えば、日本で出来ることはない。
急激に気温が下がり、冬の到来を知らせた。
もっぱら横暴で俺様な家庭教師から渡米の言葉を告げられた時には何の感情も沸かなかった。予め決められていた事とは言え、年がら年中行方不明だった父親と同じ職業に就くことになろうとは思いもしなかった。
しかもそれが遠縁に当たるじい様の跡目を継がなければならないのだから何の因果だろう。
年の離れた従兄はじい様の跡目に執着していた。
否、違う。
跡目などどうでも良かったのだ。ただ周りに認めさせられればそれで良かったのだろう。
信じていた血の繋がりを否定された瞬間から、従兄の中の何かが零れ落ちた。それ自体を従兄自信気が付いていなかったのが何ともお粗末な話で、否応にも平凡な日常を壊された此方の身としては実にはた迷惑な話だ。
渡米の日程は精密に練られ、じい様との間で奔走していた家庭教師のイキイキとした顔は、今まで一緒に暮らした中では実に感情的な表情に思えた。
愉快犯的な短所を合わせ持つ家庭教師の悪癖が出なければいいのだが、きっと願うだけムダなのだろう。
深いため息が白い息となって吐き出される。
冬の季節は始まったばかりだ。まだ見知らぬ土地に思い馳せるのはまだ早い気もするのだが、何故だか胸がざわめく。
これは期待とも不安とも言えたが、どちらでもない気がする。
不思議な胸の高まりを感じながら降り積もる雪を見上げた。
きっと明日は一面の銀世界が広がっていることだろう。
少しだけ口許が綻んだ。

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小さな恋の詩( 初ツナ)

十分な言葉はなかった。
ただ強引な程の存在感を持つ男の眉間には通常よりも若干シワが寄っていた。
やはり言葉はない。
掴まれた手首が痛いが抗議の声など今は届きはしないだろう。
男の人並み外れた腕力がこういう場面では邪魔だ。
何より男の腕を振り払えない自身が情けなくもあった。
男自身が纏う雰囲気が硬質なものへと変化してから、否が応にも不安が胸を過る。
久しぶりに会った男・・・・従兄の頭ふたつ分上を仰ぎながら腕を引かれるがまま通り過ぎる街並みを見つめる。

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ブルジョミ前提キスジョミ( 地球へ)

 人類がたどるべき道は果たして正しかったのだろうか。
漠然とながら胸をかける不安。
護りたいと思う反面、破壊衝動に駆られる。
つくづく不思議だ。
安定しているとは言い難い精神。それでも他者より図太いらしい。
苦々しく旧友の歪む顔を思い出せる。
キラキラと輝く記憶が眩しいと思えなくなって久しく、記憶の曖昧さに苛立ちさえ覚えるのだ。
隣に立つ友人は本当に僕の友人なのだろうかと疑問に駆られる。
 何故こんな気持ちになるのだろうか。
グランド・マザーのお膝元、監視・監理されるのは生まれる前からだ。SD体制は順調に進んでいる。
今更非難を口にするやつはいないだろうが、不安は常にある。
母親が恋しいわけでもなく、今の環境にストレスを感じるわけでもなく『なんとなく』感じるのだ。
そんな曖昧な言葉を口にすれば旧友は途端に渋い顔をする。理解不能だと言われているようで居心地はよくないが、旧友の言いたいことはよくわかる。
グランド・マザーの監視下で言葉は慎むべきだ、と旧友は言外に言っているのだ。
流石に連続コールされるのはいただけないだろう。
コールされた日などは決まって旧友が無表情ながら憤りを表していた。
普段、滅多なことでは感情を表さない旧友の変化を喜ばしいと思えるのは仕方がないだろう。だから旧友の機嫌を害わないように配慮する気はまったくと言っていいほどなかった。
伸びはじめた前髪を鬱陶しげに振り払いながら未だに湯気が立つ珈琲を啜った。
幼さが抜けた頬のラインは精悍さを増したようだ。
鋭さを感じずにはいられない目尻は学生時代には滅多にお目にかかれなかった穏やかさがある。つき合いだけは長い旧友の容姿は一般的には美形と称される部類にはいる。
確かに顔だけはいい。
少々性格がわかりにくいというか、一般から見れば無だ。鉄面皮なんて呼ばれるくらい表情に乏しく、この旧友は本当に損な性格をしているとつくづく思うのだ。
そんな旧友との慣れ始めは微かにしか覚えていない。曖昧な部分が多すぎるのだ。
覚えていない、のではなく、記憶自体が無い、のだ。
断片的な光景を思い出そうとすれば思い出せる。それなのに肝心なところは全くと言っていいほど無いのだ。それがどういう意味なのか答えを出すのに未だに迷っている。
 流麗な眉を寄せ、もの言いたげな表情を見せる旧友の心理的状況を察し苦笑する。
苦労性、と表現できるほどの旧友は、確かに苦労しているのだろう。眉間に寄った皺を見ればよく分かるというものだ。
どちらかと言えば男性と言うよりも女性に近い中世的な顔立ちを持つ部下のオロオロとした態度と涙目の表情を見ればさらによく分かる。
気が小さいと言うよりも自信がないと言うべきか。メンバーズに所属しているのだからエリートだと言えるのに、未だに自信なさげな表情と態度は小動物めいて可愛い。
不要な噂を流されているであろう旧友とその部下。噂したくもなる麗しい見目が仇となった、と言うべきか。二人並べば目の保養にはなる光景だ。
 ズキズキと痛む頭に眉を寄せ、食欲を誘う香ばしいかおりにお腹がグーと鳴く。それを微笑ましいとでも言うかのように珈琲を一口含んだ旧友はやはり珍しく笑みを口元へと浮かべていた。
穏やかな、どこにでもありそうな平凡な朝の光景。身に纏うのが軍服でなければなおさら穏やかな日常の始まりといえただろう。
 夢見が悪かった。寝不足気味にズキズキと痛みを発す頭を抱え、朝食の席は緩やかな雑音に満たされていた。
対面に座る旧友こと、キース・アニアンとその部下、ジョナ・マツカ。遠巻きにこの席へと視線が集まってくる。意識しなくても存在感あふれる二人を前につきたくなった溜息を飲み込んだ。
 地球再生機構・リボーンに赴任し、地球へと足を踏み入れたのは数年前。
これでも一様、エリートと呼べるぐらいには勉強してきたつもりだ。キースの様に器用貧乏に何事もできたわけではない。
再生途中とはいえ、人類の憧れであり母なる場所、地球。
マザー・コンピュータの監理の元、足を踏み入れることができた地球は思っていた以上に荒廃し、現代的だった。
地上は荒れ果てた大地に覆われ、人間は生きていくことはできない。地下に作られた移住区からでることは出来ないとは言え、地球は地球なのだ。
今ではありふれた日常の一部となっている。
そんなありふれた日常はこの数分前までは確かにあったのだ。
 通称・Mと呼ばれる存在。
マザー・コンピュータによって一部の人間のみ知らされていた存在は人類は敵と呼ばれる。
そんなMと呼ばれる存在が、この地球へと降下を宣言したのだ。国家元首との対談のために。
その国家元首が目の前でのんびりと珈琲を飲んでいる。
精悍な面立ちは一変の変化もなく、むしろ通常よりも一段と落ち着いているように思えるのは気のせいだろうか。
珈琲にミルクと砂糖。ブラックはどうにも口に合わず、スクランブル・エッグにフォークを入れた。



 うららかな日差しに金色の髪が反射して太陽のようだ。
漆黒の艶やかな髪と瞳を持つキースとはまるで正反対の色合いだ。
だが、マツカはそんな二人を見るのが好きだった。穏やかな気性とは言い難いが誰よりも優しい、まさに太陽のような人だと、マツカはジョミー・マーキス・シンにキースとは違った憧れを抱いていた。
国家元首となったキースと唯一対等であれる存在。どこか脆い部分を持つキースを理解することは出来ても介入出来ないマツカにとってジョミーはまさに救いなのだ。
盲目的、と言ってしまえばいいのだが、どこかキースに依存しているマツカである。
いつもより機嫌のいいキースの横顔をチラリと眺め、対面に座るジョミーにホッとした。
 Mと呼ばれる存在の不確定要素をあげればきりがないほどだ。
不安がないわけではない。
マツカにとってキースは命を捨てていいほど大切だが、それと同時にジョミーも大切なのだ。キースとは違った感情だが、確かにマツカにとっては掛け替えのない存在と言える。それはキースにも言えることだ。
 ジョミーは眉間の皺をほぐしながら珈琲とは言い難いミルク珈琲を啜っていた。
数時間後にはこの地球周辺にMの母船が到着する。その意味を知らない人間は此処にはいないだろう。国家騎士団が周辺警備に回されているのだ。
キースの護衛官であるマツカは周りを見渡した。
穏やかと言える空間は緊張感さえ伺えない。いつもと変わらない空間だ。
それがあまりにも異質に思えるのはマツカの思い違いなのだろうか。
着実に世界は変わろうとしている。それを肌に感じるのは、この二人がそれを願っているからに他ならない。
若い世代がこの二人を中心に集まってきている。それはマツカにも言えるのだが、実力の有無に関係なく惹かれる何かが二人にはあった。
深い緑色の瞳と黒耀の瞳。見据える先は一緒なのだと知った日からマツカにとって唯一無二になってしまった希望なのだ。
 世界は静かに、だが確実に動き始めていた。








☆★☆



 よく昔を思い出すのは程良く年をとったせいだろうか。
紅い光彩が微かに細められ、麗人の小さな溜息を聞き止める者はいなかった。
薄暗い室内が仄かな蒼色染まるのは幻想的に思える。それでもなお、この室内の主の儚さがより一層増すばかりでしかない。
時代の流れが感じられない空間。全てを内包しながらも何処か拒絶する冷たさ。
紅い光彩がより一層憂いを孕む。
まだ、溜息が紡がれた。
 光が見えた、と女神が予言した。
幾年と時間だけが過ぎ去る中の希望の光だと、女神の予言に心躍ったのは記憶に新しい。
だが、今ではそのときの感触が分からない。
確かに女神の予言は的中した。
産声とともに感じた胸の内から沸き上がる喜び。それは誰もが感じただろう。
人生の大半を永らく共に戦った友たちは次代に期待と不安に揺れながらも感激を露わにした。
待ち侘びた光は強く。生命の息吹をつよく、強く感じたのだ。
体中から沸き上がる喜び。心躍る嬉しさ。今か、今かと目覚めの日を待った。
沸き立つ心に比例して体中を暗い何かが横切った。
それは日に日に浸食を始め、ジワリジワリと広がり始めた。不安が露頭し始めたのだ。
永らく感じなかった言葉には表しがたい不安。それは光を予言した女神もまた、感じていただろう。憔悴していく女神にかける言葉はなかった。
何度も繰り返し捲られるカードは行く末を照らさず、女神は涙した。
はやく、はやく。急ぎたてられる様に駆けだした。
人工の太陽の下で眩しいほどの笑顔を浮かべた幼子に。
 繰り替えし見た光景は何度も胸を抉る。
鋭い刃は鼓動さえ止めてしまうほどの鋭利だ。
何故、と何度も何度も繰り返した言葉は静かな室内に反響した。
今は感じることの出来ない鼓動に紅い光彩が瞬いた。
それは絶望に似ていた。
胸の内がポッカリと空いた感触。どんなに否定しても拭いさる事は出来ない。
日に日に窶れていく体とは反対に、紅い光彩は冴えていく。
それと同時に体中から何かが漏れ出ていく感触に悟った。
 時間がない。
何もかもが時間がないのだと、知りたく無かった時が来た。まるで両の手の平から漏れ落ちる砂粒の様に命の灯火が目の前に迫ってくる。
 怖くはない。
ただ時が悪すぎた。
静寂が支配する室内から出ることが出来なくなっていく体が恨めしい。
薄暗い室内に紅い光彩だけが爛々と輝いている。常に体は休息を求めている。眠りに入ればいつ目覚めるか分からない体に後悔ばかりが募るのだ。
美しい金色の髪を持つ女神が涙に暮れるのを知りながら手を差し伸べてやれない自信を気遣い、気丈にあろうとする女神が痛々しい。
それでも手を差し伸べてやれなかった。
 あけない夜は無いという。
 だが太陽が姿を隠したい今、朝は来ないのだ。

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ブルジョミ本編パラレル( 地球へ)

最近何故だか「地球へ」にはまった。
アニメ自体、放送当時に一度しか見ていないと言うのにブルジョミが頭から離れない。
でも書けない。何故だか思うようにネタが纏まらない。
ちょっとした苦痛です。胃の辺りがジクジクしそうな程纏まりが悪いネタたちにイライラがピークに達しないかとハラハラ。








結局行き着く処はひとつなのだと思い知らされた。
言葉よりも雄弁に語る瞳がジッと見つめてくる。居心地の悪さに視線が泳ぐのは仕方がないだろう。
地球を見下ろす瞳は何処までも優しく、見つめてくる瞳は同一人物なのかと疑いたくなるほど鋭さをもっていた。
大宇宙から見下ろす地球に抱かれ、母なる大地が愛しくて仕方がない。それは横に佇む麗人もまた同じだろうと言うことは特徴的な紅い瞳を見ればわかる。だからと言ってこの能面にも等しい無表情な麗人は簡単には胸の内を明かしてはくれない。
それが無性に寂しい。
大宇宙を漂い続けた時間は優しさも辛さも教えてくれたが、そこには安息はなかった。日に日に擦り切れていく精神を支えたのは生まれる前から機械によって刷り込まれた帰還本能。
皮肉だ。
SD体制は大宇宙を漂う中で更に完璧なものを求めて進む。そこに人類が入り込む隙はあるのか甚だ疑問だが、人間は考える事を機械に任せた。自業自得とは言え、機械によって全てを管理管轄された人間に変革を促すのは無茶にも等しいだろう。
それをやってのけるようとする隣の麗人に数多の尊敬が向けられている。
シャングリラが出航してどれ程の時間が流れたのだろうか。ほんの数人の同士達から始まり、徐々に人数が増えたがその分だけ減っていった。
今ではシャングリラ出航当時を知る者は数人しかいなくなった。
それが寂しくないとは言えないが、時が癒してくれる。人間よりも身体的には劣るが基本的にミュウは長寿だ。
後悔も懺悔も悔やむ時間はあった。それが唯一の救いだろうか。
人間から迫害された時間は生々しく脳裏に焼き付いている。だからこそ求めた安息の地・・・地球。
シャングリラの総指揮者・ソルジャー・ブルーと進む道はまだ先が見えない。
それでも還りたいと思うのは何故だろうか。
機械に植え付けられた地球は余りにも遠く、心は常に求めて止まない。
泣きたくなる程切実な思い。
胸に抱いた根拠の無い希望。それでも前へと進む事を止めないソルジャー・ブルーが切なかった。
刹那的な生き方。
悲しくて、寂しくて。
それでも立ち止まる事を良しとしない背中が遠い。
幾度の戦闘を繰り返し、地球を求めても辿り着く先が見えなく、諦める事は出来なかった。
機械によって管理された社会からは異端でしかないミュウと言う存在を肯定してくれる母なる大地。
夢を見る。
幾度の巡ろうとただひとつ、地球を求めても止まないミュウの祝福はまだ遠い。

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父親と喧嘩しました

ムカつくんです。
何事も自分中心に考え、やりたい放題。
そのくせ自分の都合が悪ければ責任を人に擦り付け、自分は何も悪くない、と思い込んでいる。
周りの言葉には耳を傾けない。自分の思い通りにならなければすぐに怒り、呆れるくらいに我儘放題。
他人には言いたい放題。他人の粗には怒りながらも自分も同じことをしていると自覚しない。
自分は悪くない。他人が悪いのだと心底思い込んでいる。
自分は正しいのだと思い込みが激しく、いい加減愛想がつきます。







なぜあんな人が自分の父親なのかと何度思ったでしょうか。
家族のためだと、それが口癖のくせに家族のことを考えることもなくやりたい放題な父親。
間違いを指摘すれば、お前が間違っているのだと怒り、考えを改めることもない。
自己中心的で気に入らなければ怒り、人の粗ばかり探す。



やりきれないよ

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恐怖の童顔綱吉の話~孤高の浮雲編

昔から人より歳をとるのが遅く、童顔だと思っていた。
二十代の時には十代前半に見られていた。老けて見られるよりはまだマシだと言い聞かせ、三十代の時には十代半ば。四十代の時には周りから不思議がられる程月日が流れないまま十代後半から一向に上には見られる事はなかった。
驚異的な童顔だと驚かれるよりも笑われた。
年齢に比例して歳をとる友人たちが心底羨ましく、同じ年代の女性からは羨まれた。
あれ、これは無いんじゃね?、と思ったのは五十代後半。未だに中学生。よくて高校生に間違われていた。
流石にこの時から笑っていた友人たちからも不審な眼差しを向けられ、六十代の時も七十代の時も一向に変わらない容姿。不審がられるのを通り越して不気味がられた。
その頃には人目を避けるように引きこもり生活が続き、気が付いたら思いの外時が過ぎていた。
余りの怠慢さに呆れるよりも変わらない容姿に嫌気がさした。
その頃には世間では生きているか死んでいるか分からない身の上になっていた。笑えない冗談だ。
あれよあれよと月日が流れ、生死の境よりも存在自体知る人間がいない中、ふと気が付いたのだ。
俺、まだ結婚してない。
あまりの衝撃に結婚以前に一度も彼女がいた記憶がなかった。
これはまずい。まずすぎる。
いくら童顔とは言えそこそこ歳はとっていた。
世間的に言えばロリコンと後ろ指さされるほどの歳の差だ。
どうしようどうしようか、と思い悩んで季節が三回ほど巡り、出ない答えに思考を放り出した。
物臭な性格がたたって引きこもり生活が続き、傾いた家が修復出来ないほどの有り様になり、御近所からは無人だと思われて仕方ないぐらいには敷地内は伸びっぱなしの草に所々朽ちた外観。人が住んでいると考える方が不思議なくらいだ。
ここまで来て漸く重い腰を上げた。
見上げた見馴れた家とは到底思えず、よくここまで持ちこたえてくれたものだと感嘆した。
古びた家から漸く出てきた家主に御近所中が騒然となったのは記憶に新しく。しかも家主が十代。いくら童顔と言えども信じてくれる御近所さんはいやしなかった。
みずぼらしい家の修復には相当時間が掛かるらしく、これは建て直した方がよくね、と思い立ってみたが先だつ金がなかった。
かつては新築一軒家に母親と暮らしていた住み慣れた家を泣く泣く手放すしかなかった。
これからどうしようか、と路頭に迷うはめになった。今更ながら世の中の流れが凄まじく過ぎ去っている事に気が付いた。
そこには見馴れた街並みはなく、見知らない世界が広がっていたのだ。
少しの間は公園にでも住もうかと考えてはいたが、どうにも住める気がしない。
リーゼントに学ランの集団。統制された姿に目眩がした。
周りを見渡しても何故だか時代遅れの集団からそそくさと立ち去る。今一よく分からない世の中の流れが身に染みると言うか何と言うか。
ぶっちゃけ痛いです。物理的に。
目尻に涙が滲み始めた。御近所さんたちがこの集団から目を反らし、そそくさと立ち去っていた意味が漸くわかった。
そりゃ逃げるよな。こんな暴力リーゼント集団から。
その中心にいてどこか見馴れた姿に目が止まる。周りがリーゼント集団だからこそ浮いた存在。切れ味のいいナイフの様な目は肉食獣のようだ。
嫌な汗が背筋に伝う。
どこか見馴れた容姿も相まって駆ける恐怖は本物だ。
何処から取り出したのか分からない鈍器を振りかざす様は嬉々としている様に思えるのだが、見間違えであってほしいかも。
振り下ろされる鈍器の隙間からリーゼント集団の可哀想な者を見る様な眼差しに泣けてきた。
これなら倒壊するまで家の中に引き込もっていた方がよかった。目尻に溜まった涙が零れた。
中学時代の恐怖を体験しているかのようだ。
あおい。何処までも蒼い空が無性に恋しく思えてならない。
怪訝な視線からびっくりしたかの様な視線に笑えた。
殴って叩いてボコボコにした男が突然大泣きしているのだ。怪訝に思われても仕方がないが、流石にこれ以上殴られるのは頂けない。
びーびー泣き出した男に不機嫌になっていく空気を感じた。流石にこれ以上は、と止めにかかったリーゼント集団に更に不機嫌になった空気が空を切った。
ポロポロと未だに止まらない涙に霞んだ視界からごめんなさい、と謝っておく。
きっと巻き添えを食ったリーゼント集団は悪くないと思うんだ。
気晴らしにもならないのか、思う存分暴れていたと思ったのに鈍器を握りしめたまま振り返った姿は中学時代に散々つつき回された先輩に酷似していた。
やはり時間の流れを感じてしまった。
「何笑ってるの」
余裕だね。と言われて気が付いた。久しぶりに笑っていた。それだけじゃ無いけど、何だか無性に嬉しかった。
更にムッとした表情が可愛く思えたのは年の功だろう。そうでなければマゾに目覚めてしまったか。
振り下ろされる鈍器。綺麗な真っ黒な瞳と視線が絡み合った。
ニヤリと口元が緩んだのを自覚する。
見開かれた瞳の中に散々見馴れた童顔が写り出されるのがわかる。
一癖も二癖もある先輩がそこにいた。
頭を直撃するはずだった鈍器はその寸前的を失った。ふわふわな癖毛が重力に逆らい視界を覆う。
あぁ久しぶりだ。
運動も勉強も満足に出来なかった学生時代。唯一の特技が中学時代の先輩によって成された事は涙ながらに語るしかない。その先輩の暴虐で俺様な性格と容姿をもった男に忌まわしい記憶を呼び起こされる。
出会い頭にボコボコにされるのは馴れている。毎日がバイオレンスに基づいていた生活だった。
そのお陰とは言われたくないが、少しは危機を回避することになれた。主に暴力的な先輩から逃げることに役立ってはいたが、まさかまさかの展開にちゅっびり浮かれてしまった。
あはは~、な展開だ。鈍器を両手に持ち、嬉々として打ってくる姿がかつての先輩を沸騰させる。
引きこもり生活に慣れた体が悲鳴を上げる。それでも必死になって避けるのは気を抜こうならばそれこそボコボコにされて放置されるだろう。目に見えてやりそうな性格だ。
伸びっぱなしになっている髪が視界をさえぎり邪魔をする。今更髪にかまけている暇はないが視界が遮られるのは頂けない。
体ごと横に飛びはね、視界をさえぎる髪を引っ張り視界をクリアにした。振り返った視線には待ち構えたかのように鈍器があり一瞬の判断が命取りだ。
上体を屈め振り下ろされた鈍器を片足を振り上げて勢いを止める。バランスを崩したのを見計らい畳み掛けるように振り上げた片足から更に重心を回転させ一気に振り下ろす。
思いの外イイ音を響かせ頭上にヒットした。
あぁ痛いだろうな。
流石にやり過ぎたかな、といい歳した大人がやることじゃないだろ、とそろりと片足を引いた瞬間下から鈍器が迫ってきた。
どうやら強靭な肉体をお持ちのようだ。
躊躇いなどなかった。
顎下目掛けて足を蹴りあげ、鈍い音がした。
振り上げられた鈍器が頬を掠め、ピリッとした感覚に眉に皺がよるのは仕方がないだろう。
このまま目を覚まさないでくれたらありがたい。
小さく溜め息を洩らし、久々に馴れないことをするんじゃなかった。
膝がガクガクしている。明日はきっと筋肉痛に悩まされるに違いない。
晴れやかな空の下、中々体に染み付いた習性は取れないのだと知った。
膝から地面に倒れるのを止めることは出来なかった。
どこか遠くで足音がした気がする。
誰でもいいから助けてくれないかな。
淡い期待と掠れる視界に胸の内がスカッとした気がする。




◆◇◆◇

記憶は何時も曖昧だ。
ただ単に記憶力がないだけなのだが物忘れが酷いのだ。これは世に言う歳のせいだろうか。笑って誤魔化しがそろそろ効かなくなって来た頃、ふと思った。
いい加減な性格が災いしたのか、自分の年齢を忘れていた。
確かに記憶にはあった出来事なのだが、それが何時だったのか忘れていた。
懐かしい面差しをもった彼もまた、いつの記憶だったのか。
現実味が人より乏しい気がした。
「君は誰?」
思いは言葉に。怪訝な表情で答えた少年に少し笑えた。
まだ幼さが残る頬のライン。ややつり上がった目尻とか、とても懐かしくて仕方がない。
だからこれも仕方がない。
「雲雀さん」
懐かしくも暖かい人。
孤高の浮雲だと言われた人はいつも解りづらい愛情表現をしめす。純粋とは程遠い性格なのに何処までも純粋な子供だった。
見開いた瞳はいつにまして綺麗な輝きがあった。
「やっと会えた」
それは安堵感に似ていた。
まるで野良猫の様な性質を持ちふらりと現れては突然居なくなる。出会った当初からそれは変わらず、それが野良猫の様だと話した事があった。
ただ笑っていられた数少ない記憶。
着かず離れず。気が付いたら時間だけが過ぎていた。
こう言ったら笑われるだろうがその存在に救われていたのだ。
「謝りたかったんです。雲雀さんに沢山迷惑かけて、でも何も返せなかった」
ごめんなさい。
呟いた言葉に驚きの色が濃くなった真っ黒な瞳を見つめた。
やっぱり綺麗だな、と思う。
孤高と言う言葉が似合う人。
だから・・・・。


間近に迫った瞳から目を反らす。
それしか出来なかった。
困惑から驚き。やはり困惑の方が高かっただろう瞳の奥に似通ったモノを拾った。
厳しくも優しい人が目の前にいた。
一度閉じた瞼の裏に鮮明に蘇る姿はいつも真っ直ぐ伸びた背中だった気がする。

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紅い月2 ツナ総受けパラレル

きっと此れは夢だ。
なるほど。ひとつ頷き納得する。
夢ならば非現実など当たり前なのだ。それは夢だから。
スカルの呟きは何処までも否定的であった。手に持った袋がかさり、と音をたてる。
最強(凶)で最悪な俺様先輩二人組によってパシられている最中、スカルは意気揚々と先輩二人組の所へと戻るのだ。若干青ざめた顔だったが。









今から少しだけ遡る事数年。いや、数世紀だったか。
曖昧な記憶の最も古い部分まで遡る。優しげな穏やかな少女めいた女性がいた。
どんな名前だったのか。どんな声だったのか今では思い出せない。
ただ 余りにも穏やかな眼差しに胸に込み上げてくる何かがあった。
今更ながらそんな曖昧な記憶を大事に仕舞っていたのかと少しだけ愕然としたが、何がそんなに大事なのか分からない。
ただ言えるのは、確かにこの女性を俺は知っていた。
そして失ったのだと言うことも。
巡る季節の中に置き去りにされた最も古い記憶の欠片を集め、世界がまだ穏やかな時を刻んでいた頃、俺は確かに幸福だと言えたのだ。
あの穏やかな眼差しが好きだった。
ふふっ、と漏れ出た笑みは一瞬にして空しさ与えた。眼下に広がる世界は記憶の中よりも荒廃していたとしても、確かにそこに存在した世界があった。
此れを愛しいと言うのだろうか。
腹の底から込み上げてくるものに胸が満ち足りた気がした。
風に香る微々たる匂いが更に強く主張してくる。
昔は無かった。だが今は確かに不吉な何かを風が伝えてくる。
聳え立つ純白に染まった巨峰は厳かに存在を主張している。
昔はなかったそれが時の流れを感じさせた。

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