妄想と現実の境界線
BLEACH 藍一 2
力があるからいけなかったのだろうか。
求めたのは護る為。それが裏目に出たのは必然か。偶然か。
強大な霊圧を押さえる事を知らず、周りを威圧するかのように垂れ流し状態。
それが彼らしい、と言えばらしいが、制御する方法を知らない彼は、きっとそれすらも優しさなのだろう。
かつての師は馴染んだ霊圧の主を懐かしみつつも交えた刃の数だけ複雑な心境をもたらした。
それが何と言う感情なのか、師であり人生の先輩である男には到底理解できない感情に翻弄されている最中だ。
枯れ草色の髪を無造作に掻き上げ、現れた相貌は怠慢気味に憂鬱な色を宿していた。
「一時とは言え、師として言っときますが 貴方では役不足っすよ」
「だろうな」
傲慢な言葉だった。それでも目の前の少年は一切ひるむ事無く笑った。
それが余りにも清清しいほどの笑みで、場違いながら見惚れた。
あぁ、なんたることだろう。今更この胸を傷める感情の名を、知った。
啼く声が、聞こえた。それは己か、はたまた相棒か。どちらでもよかった。
互いに夢を見続ければよかたのに。こんなにも脆い関係に縋る己とそれを断ち切った少年。
「滑稽っすね」
ふと、漏れた言葉に怪訝な表情を見せる少年に笑って欲しいと思った。
弟子は師を越えて一人前になると言うが、何故だか”死ねない”と思った。
今にも降りだしそうな空模様が胸の心境を表しているようで、笑えた。そしたら清清しいほどの虚無が胸の内にある事を今更ながら再確認させられた。
これは消失への恐怖だったのだろうか。
今にも消えてしまいそうな少年は有り余る力を持て余しながらも必死に腕を奮う姿に感嘆が漏れる。
浦原喜助は、昔馴染みの友人兼悪友にどう謝罪すればいいのか交えた刃の端々から除くブラウンの瞳を見つめながら考えた。
あの豪傑な悪友は、目の前の少年をなによりも溺愛していたのだ。
否、している。と言った方がいいだろう。
例え目の前の少年が敵だと、刃を向けてこようとも彼女は決してその想いを悔いる事は無く、むしろ愛おしそうに金色の相貌で少年を見つめ続けるだろう。
それを分かっていて止めない己も。振り下ろす刃を躊躇する少年も。
全て優しさで出来ていた。
―――――救いなど無いのだと判りきった事なのに、それでも一条の光を求めた。
この記事にコメントする
この記事へのトラックバック
- この記事にトラックバックする