妄想と現実の境界線
お題☆恋する台詞 冬←一護←浦+愛+他
バカみたいに泣いた。
降る雨の中、くすんだ髪から滴り落ちる雫を払いのける事すらせず男は立っていた。
腹いせに男の頬を平手打ちしても、男はただ静かな眼差しでそこに立っていた。
それがどうしようも無いほど苛立ちを募らせる。
馬鹿だ、馬鹿だ、と思っていたが、ここまでどうしようもない馬鹿だとは思いもしなかった。
頭の回転は人一倍良いくせに、どうしてこんなに馬鹿なのだろうか。
見っともなく泣き腫らした目元から雨に混じって滴り落ちる雫は止めどうなく流れる。
何度も罵り、罵倒しても変わらずそこに居た。
そう、ただそこに居るのだ。
静かに、何かを問う訳でも慰める訳でもなく、ただ静かに佇んでいた。
優しく抱擁する腕もなく冷たい雨の中で男の真摯な眼差しが全てを見透かすかのように思えてならない。
あぁ。この想いの行き着く先など分かりきっていたはずなのにどうしようもないほど期待する。
それを嫌と言うほど分かりきっていたはずなのに、それを目の前に突きつける男が憎くも恨めない事実に腹立たしく。
過ぎ去った季節の分だけ、想いはいつも空振りで。それでもこの想いだけは失えなくて。
くすんだ髪から滴り落ちる雫を呆然と見つめた。
男と瞳に浮かぶのは真っ直ぐな、何処までも真っ直ぐすぎる事実を突きつける。
白銀の髪が道の反対側にあった。隣には見慣れない栗色の髪の少女。
馬鹿馬鹿しいほどそれを目ざとく見つけてしまう自分が情けなくも、目の前に佇む男はそんな心の内すら見透かすかの様に、言葉無く視界を遮るのだ。
何処までも真綿に包むかのような優しさと非常識さを併せ持つ男は静かにそこに居たのだ。
痛いほどの想いがそこにがあった。
この眼を抉り取ってくれ
そうすればお前だけを感じていられるから
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